紙面から

<リオへ届け 被災地からのエール> バドミントン・山口茜へ 日本の宝。自分らしく

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◇福万・与猶組から

 山あいにある蒸し暑い体育館の中で、シャトルと歓声が飛び交った。国道と鉄道が復旧せず、熊本市からは山越えの道からしか行けない熊本県南阿蘇村で今月17日、バドミントンのトップ選手による復興イベントが開かれた。

 午前は模範試合、午後はバドミントン教室が開かれたイベントで、ひときわ大きな声で子どもたちを盛り上げていた選手がいた。地震で甚大な被害を受けた同県益城町を本拠地とする再春館製薬所の福万(ふくまん)尚子。「熊本の子どもたちが主役。サインを書くよりも、そばでしゃべって選手の声を届けたかった」。指導を受けた子どもたちは、目を輝かせてラケットを握り締めた。

 同じ所属の与猶(よなお)くるみとのダブルスでリオデジャネイロ五輪を目指していた今年4月、遠征先のシンガポールで熊本地震の報を聞いた。「自分にはどうしようもできないもどかしさと、頑張ろうと思いすぎたのとで、パニックになった」。心の整理ができず、試合でも結果が出なかった。だが負けて気付いた。「熊本のためにと思いすぎる前に、まず勝たないといけない」。地元に元気を届けられるのは、勝ってこそ。それから気持ちを切り替えた。

 与猶も「熊本の人もあきらめずに頑張っている。自分たちもあきらめちゃいけない」とプレーに集中した。五輪出場権を懸けた最後の戦い、アジア選手権では準決勝で世界ランキング2位のインドネシア組を破る快進撃。だが勝てば五輪切符を獲得できた決勝で、同1位の高橋礼華、松友美佐紀組(日本ユニシス)に敗れた。

 再春館製薬所からは、後輩の山口茜が女子シングルスでリオでの祭典に出場する。与猶は「熊本のためと思い込みすぎずに、いつも通りのバドミントンを」。若い山口が必要以上の重圧を感じないように気遣いながら声援を送る。

 「山口茜という存在は、日本の宝。あの子がいるおかげで熊本も注目されるし、みんなが笑顔になる」と福万は感謝する。自らは果たせなかった役割を担ってリオへ旅立つ頼もしい後輩へ。「メダルとか考えずに、自分らしく頑張ってくれれば」。熊本の子どもたちとともに、地球の反対側から応援する。

◆もっと笑顔 広がるように

 イベントには山口も参加。中学生と対戦し、世界レベルのプレーを披露して楽しませた。「バドミントンを楽しむ環境が(震災の)前より少なくなったかもしれないけど、こういうイベントで楽しんでもらえる機会をつくれれば。子どもたちの笑顔はうれしかったし、もっと笑顔が広がるように手伝っていければいい」と話した。

 日本代表の合宿に合流するために途中で会場を後に。多くの地元のバドミントン関係者に見送られ、「どこにいても自分のやることは変わりない。いろいろなことを考えて思いながら、やっていきたい」と被災地の思いを胸にリオで戦う覚悟を語った。

 <やまぐち・あかね> バドミントンが盛んな福井県勝山市出身。2人の兄の影響で5歳からバドミントンを始め、史上最年少の15歳で日本代表入り。2013、14年の世界ジュニア選手権で連覇。19歳。

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