本紙が選ぶ「五輪精神」8シーン
熱戦が繰り広げられたリオデジャネイロ五輪。私たちの記憶に刻まれた名場面は少なくない。オリンピック憲章は「オリンピック精神においては友情、連帯、フェアプレーの精神とともに相互理解が求められる」とうたう。この大会で五輪精神を感じさせた場面を、本紙が「八つの入賞シーン」として選んだ。
(左)予選のレース中に米国のアビー・ダゴスティノ選手=右=を助け起こすニュージーランドのニッキ・ハンブリン選手。 (右)ゴールし、たたえ合う両選手=ゲッティ・共同 |
◆転倒後の助け合い
まずは陸上女子5000メートルに出場したアビー・ダゴスティノ選手(米国)とニッキ・ハンブリン選手(ニュージーランド)を挙げる。
予選で同じ組だった二人は途中で接触、転倒した。ダゴスティノ選手は立ち上がったが、ハンブリン選手は倒れたまま。このときはダゴスティノ選手がハンブリン選手を助け起こしたが、足を痛めたダゴスティノ選手が倒れると今度はハンブリン選手が助け、ともにレースを続けた。
足を引きずりながら最下位でゴールしたダゴスティノ選手は、待っていたハンブリン選手と泣きながら抱き合った。国際オリンピック委員会は「真の五輪精神」を体現しているとして二人にフェアプレー賞を贈った。
閉会式で笑顔で写真に納まる荒井広宙選手(左)とエバン・ダンフィー選手=ダンフィー選手のツイッターから |
◆二転三転後の祝福
次に挙げたいのは陸上男子50キロ競歩で銅メダルの荒井広宙(ひろおき)選手と四位のエバン・ダンフィー選手(カナダ)。荒井選手はダンフィー選手を妨害したとしてカナダチームの抗議により一時は失格扱いとなった。
銅メダルと四位では大きな違いだが、荒井選手は「選手同士は問題なかった。メダルがなくても次につながるレースだった」と穏やかだった。ダンフィー選手は「抗議はカナダ陸上競技連盟が行った。ぶつかることは競歩ではよくある」とコメント、自身のツイッターには閉会式で撮った荒井選手との写真を載せている。
男子個人総合で金メダルを獲得した内村航平選手。左は銀メダルのオレグ・ベルニャエフ選手=共同 |
◆「今の質問は無駄」
体操男子個人総合で僅差の銀メダルだったオレグ・ベルニャエフ選手(ウクライナ)の会見での対応も「フェアプレーの精神」とたたえたい。
優勝した内村航平選手に向けられた「審判から好意的に見られているのでは」との質問に、ベルニャエフ選手は「点数をつけることはフェアで神聖なものだ。今の質問は無駄」と答えた。
女子ダブルスで優勝した高橋礼華選手(右から3人目)と松友美佐紀選手(同4人目)。左側が2位のデンマークペア=共同 |
◆最終戦に敗れても
バドミントン女子ダブルスの決勝で対戦したカミラ・リターユヒル選手、クリスティナ・ペデルセン選手(デンマーク)と高橋礼華選手、松友美佐紀選手は健闘をたたえ合った。
優勝してインタビューを受けている高橋、松友ペアの後ろを通るとき、デンマークの二人はにこやかに祝福した。松友選手は「リオで最後という選手がたくさんいた。決勝で戦ったデンマークのペアだったり。そんな選手がいてくれたから、今の自分たちがある」とコメントした。
決勝でアゼルバイジャン選手(右)を破り優勝した大野将平選手=隈崎稔樹撮影 |
◆相手敬う「礼」深く
柔道男子73キロ級で金メダルの大野将平選手も挙げたい。優勝した瞬間、ガッツポーズや雄たけびはなかった。そして深い礼。「相手を敬おうと」。日本柔道、スポーツマン精神を体現していた。
会場練習で自撮り写真に納まる韓国の李恩朱選手(右)と北朝鮮のホン・ウンジョン選手=ロイター・共同 |
◆南北2人の自撮り
国同士が緊張関係にある中で選手たちの振る舞いに目を見張るものがあった。体操女子の李恩朱(イウンジュ)選手(韓国)とホン・ウンジョン選手(北朝鮮)は、会場練習のときに李選手が持つスマホに向かって笑顔を見せ、ツーショット自撮りした。
表彰台で、握手する金メダルの韓国の秦鐘午選手(左)と銅メダルの北朝鮮のキム・ソングク選手=AP・共同 |
◆祖国統一されれば
射撃男子50メートルピストル決勝では、秦鐘午(チンジョンオ)選手(韓国)が金メダル獲得を決めた際、銅メダルとなったキム・ソングク選手(北朝鮮)が歩み寄って握手した。キム選手は「(両国が)統一されれば、私たちのメダルはもっと大きな意味を持つ」と話したという。
◆緊張2国の表彰台
クリミア半島を一方的に併合したロシアと緊張状態が続いているウクライナ。体操男子の種目別平行棒で金メダルのベルニャエフ選手(ウクライナ)と銅メダルのダビド・ベリャフスキー選手(ロシア)は表彰台で抱擁し、お互いの健闘をたたえた。