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リオ五輪 きょう開幕 吉田主将、集大成の4連覇へ

リオ五輪前の強化合宿で笑顔を見せる吉田沙保里=7月24日、東京都北区の味の素ナショナルトレーニングセンターで

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 まもなく開幕するリオデジャネイロ五輪で、日本選手団の主将を務めるのが全競技を通じ、女子初となる五輪4連覇を目指すレスリング女子53キロ級の吉田沙保里(33)だ。勝つたびに集まる期待を明るさで受け止め、ニッポンの顔という重荷も笑顔で引き受けた。「最後の五輪になるかもしれない」。悲愴(ひそう)感を表に出さない新時代のアスリートは南米で全てを出し尽くす。

 2002年から世界大会16連覇。「霊長類最強」と呼ばれる女王が、人目をはばからず涙したのは昨年の秋だった。「ほんとに負けるかと思った」。9月の世界選手権(米ラスベガス)の決勝は2−1の辛勝だった。

 約3カ月半後のクリスマスイブ。10年間所属した会社を離れる意向を明らかにした。「刺激が欲しかった。フリーなら、もっといろんなことができる」

 テレビ出演、CDデビューなど多彩に活躍してきたが、若手の影はすぐそこに迫る。それでもマット外に活動の幅を広げるのはなぜか。五輪イヤーが明けた1月末、東京都内で吉田に真意を問うと、「ずっと見てきたから分かるでしょ」。いたずらっぽい笑みが返ってきた。

 「苦しいことの後にはご褒美がある。だから頑張れる。白か黒、やると決めたら切り替えられるのが私」。その一時間後、宇宙服姿でカメラの前に登場した女王。昨秋の泣き顔とのギャップに、膨らむだけ膨らみ、ふとした刺激ではじけてしまいかねない重圧が垣間見えた。

 どれだけ敵を倒しても周囲は次の勝利を疑わない。30歳を超えてけがが増え、2年前に父の栄勝さんを失う心の痛みを抱えても。激しいスパーリングを重ねる至学館大の道場と、まばゆい世界とを行き来する生活を選んだのは「多くの人が私を知ってくれれば勝って喜ぶ人も増える」と、意欲の薪(まき)をくべ続ける必要に迫られたからだ。

 五輪はこの一世紀余りで商業化が進んだ。跳ね上がるメダルの価値についていけず心身のバランスを失うアスリートも増える中、三重の静かな山里で育ったレスリング少女は自分らしさを貫き、国民的ヒロインとなった。「絶対、4連覇します」。東京五輪に挑む若者の道しるべにもなる女王の物語はリオでクライマックスを迎える。 (鈴木智行)

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