紙面から

フェンシング 佐藤 母になってたくましく

女子エペ個人1回戦、メキシコ選手に勝ち、スタンドの声援に応える佐藤希望=佐藤哲紀撮影

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 たくましくなって戻ってきた。佐藤希望(30)は6日、2度目の五輪に出場し、初戦で五輪初勝利を飾り、2戦目も勝利を収めた。この4年間で結婚と出産を経験。「自分がモデルケースになり、母親になっても競技ができることを見せたい」と信念を持って取り組んできた。

 「フェンシングを始めたときからのあこがれ」という五輪。前回のロンドン大会は初戦で敗れ、1勝もできなかった悔しさからリオも目指すと決めた。五輪後に会社員の充さん(40)と結婚。2013年7月に長男の匠(たくみ)君を出産し、子育てに約1年専念してから再び剣を握った。

 富山市に住む充さんとは離れて暮らし、東京の国立スポーツ科学センターを拠点に競技に取り組む。朝は子どもを連れて家を出発し、隣接の選手向け託児室に預けて練習。夕方、一緒に自宅に戻ると、家事の時間に切り替える。「練習している時間が一番落ち着いていたかも」。当初のどたばたから一転、慣れれば「オンとオフのメリハリがしっかりできる」と競技に追い風になった。

 子どもとの時間を大切にしながら、競技への気遣いを忘れない。「練習ができなくなってもいけないから」と、腕への負担から、利き手の右ではなく、子どもを抱っこする際は左手にした。「オリンピック頑張ってね」とエールを送る匠君は会場に連れてきてはいないが、「子どもにスポーツを頑張ってもらえるきっかけになれば」という思いを胸に秘める。

 夫の充さんも福井県代表として12回、国体に出場した元フェンシング選手。前回五輪の時は交際中で、インターネットの中継で初戦敗退を見届けた。「本人のやりたいことをやらせてあげたい」と充さん。「五輪で一勝」。それを約束に妻を励まし、支え続けた。

 6日は福井県越前市でのパブリックビューイングで観戦。見事約束を果たした妻に「感極まって…」と涙。2戦目も勝つと「プレゼントをもらったみたい」と今度は笑った。

 佐藤選手は「子どものため、主人のために頑張ってきた」と五輪への道のりを歩んだ。本番も家族のエールが力だった。 (リオデジャネイロ・磯部旭弘)

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