紙面から

柔道・松本、食らいつき「銅」 最後は泥くささ発揮

女子57キロ級3位決定戦台湾の連珍羚(右)を攻め込む松本薫=今泉慶太撮影

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 3位決定戦で、ようやく本来の泥くさい柔道を見せた。終盤に足技で有効を奪って優勢勝ち。女子57キロ級で連覇を狙った松本は、銅メダルに終わり「腹の中は煮えくり返っています」と悔やんだ。

 準決勝。相手の背負い投げをこらえたところで一瞬、棒立ちになった。その隙を世界ランキング1位は見逃してくれない。2度目の背負い投げで松本の体がきれいに宙を舞った。「1回目を防げたので、こういう感じか、大丈夫だと思って重心が上がったところにスコンと入られた。試合中に大丈夫なんてことはないのに」。開始わずか24秒。顔を覆って畳に突っ伏した。

 歯をむきだし、上目遣いで相手をねめつける。右脚を前に踏ん張って低く構える。そのさまは、金メダルを獲得して“野獣”と呼ばれたロンドン五輪をほうふつさせた。日本勢に金メダルがない状況で登場したのも前回と同じ。しかし、周囲の状況と自身の内面は明らかに違っていた。

 出場者の顔触れは普段の国際大会と大きく変わらないが、「何が何でもメダルを取りに来る執念が違った」という。五輪王者は次の五輪までの間、国際大会で金色のゼッケンを背中につける。松本はどこの会場でも「金ゼッケン」と指をさされ、「それにふさわしい人間にならなければ」と過剰に意識した。「みんなが私を見て、研究してくる」と涙を流したこともある。

 28歳になり、体調管理にも気を使う中で、さらなる進化を模索。「しんどかった。ないと自分に言い聞かせているだけで、実際にプレッシャーはたくさんあった」。再び表彰台の真ん中に立った時、どんな思いが胸に去来するのか。その答えを追い求めて走ってきた。

 迎えた本番。足技が思うように出せず、リズムに乗れない試合展開が続いた。最後に持ち味を発揮したが、「ああ、終わったー、という感じ」。自分と戦い続けた4年間が終わった。 (井上仁)

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