紙面から

柔道女子57キロ級「銅」 松本、女王の責任感

女子57キロ級3位決定戦台湾の連珍羚(下)を破り銅メダルを獲得した松本薫=共同

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 金を逃した悔しさと、メダルを持ち帰れる安堵(あんど)感と。その両方が混ざった気持ちを「甘酸っぱい」と表現した。銅メダルを獲得した女子57キロ級の松本。ここまで続いてきたメダル獲得というバトンを、柔道で日本女子最年長の28歳が次につないだ。

 準決勝は試合開始すぐに背負い投げで屈した。しかし、気持ちを入れ替えて臨んだ3位決定戦。本来の泥くさい柔道を取り戻し、執念の足技で有効を奪って優勢勝ち。年下の後輩を引っ張るリーダーとしての意地を見せた。

 「妖精を見た」「空と会話する」など独自の世界観が話題になることが多い松本が、リーダー役を担おうと意識したきっかけは、2013年の暴力指導問題だったという。自身は前年秋に肘の手術を受け、リオに向けてどう気持ちを立て直そうか悩んでいた時期。しかし、日本代表は監督が交代するなど先行きが見えない状況で、後輩たちの表情が暗く見えた。

 「自分の勝手なイメージだけど、その時の柔道界で世間に知られているのは私しかいなかった。ごたごたある中で、軸になる選手が一人いるだけでも違うと思った」。ロンドン五輪金メダリストとしての責任感が背中を押した。

 合宿では顔役として積極的に取材に応じた。若手が雰囲気に早くなじむようにと声をかけた。代表歴の浅い78キロ級の梅木真美(環太平洋大)を漫画のキャラクターに例えて報道陣に売り込んだことも。五輪前には「若手からも声をかけられるようになって、対等な立場に立てている」と手応えを口にしていた。

 「みんなで金メダルを取りにいく。個人戦だけど団体戦」と臨んだリオ五輪。「(前日までの)2人が取れなかった金メダルを」という思いは果たせなかったが、メダルはつないで後の4人に夢を託した。 (井上仁)

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