紙面から

柔道男子73キロ級・大野、心技体の頂点 「普通にやれば一番強い」

男子73キロ級決勝 アゼルバイジャンのルスタム・オルジョイに一本勝ちした大野将平=リオデジャネイロで(今泉慶太撮影)

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 男子73キロ級で大野将平(旭化成)が決勝でオルジョイ(アゼルバイジャン)に小内刈りで一本勝ちし、今大会の日本柔道最初の金メダルを獲得した。日本男子では2大会ぶりの優勝となった。

 女子57キロ級の松本薫(ベネシード)は準決勝で敗れて2連覇は逃したが、3位決定戦で連珍羚(台湾)に優勢勝ちし、銅メダルを手にした。開催国ブラジルのシルバが優勝し、今大会の同国金メダル第1号となった。 (共同)

 決勝も小内刈りの一本で勝ちきった。完璧な柔道で柔道日本男子に2大会ぶりの金メダルをもたらした73キロ級の大野は、それでもガッツポーズも笑顔も見せなかった。勝ってなお冷静に、いつも通りに。その姿は、王者の心技体の群を抜いた完成度を物語っていた。

 5試合のうち4試合が一本勝ち。五輪の大舞台でも、圧倒的な強さを見せた。現役ボディービルダーでもある日本男子の岡田隆総務コーチが「筋肉がパンパンに詰まっている」とほれぼれするほど鍛え上げられた肉体がパワーの源。組み手や投げる技術は中高の6年間を過ごした柔道私塾の「講道学舎」で下地を培い、「一本柔道」を掲げる天理大で強さを生かすうまさに磨きをかけた。

 対戦相手の研究はほとんどしない。それよりも最終段階で自分を完璧に仕上げることが最優先。「ピーキングとコンディショニング」も必勝の鍵にあげる。

 精神面の成長は、天理大の穴井隆将監督が自らの体験を伝えることで促した。ロンドン五輪で穴井監督は2回戦敗退。「五輪を(特別なことと)意識するのではなく、常に意識して、自分は五輪に出る人間だと自覚することが大事」と心構えを伝授した。

 転機となったのは、2014年の世界選手権。前年にオール一本勝ちで世界一になり、「同じくらいインパクトのある形で連覇しようと色気が出た」。格下の相手に足をすくわれ、敗因を探る中で緻密な調整の重要さに行き着いた。体をつくる時期、稽古で追い込む時期など綿密に計画し、試合当日は「普通にやれば一番強い」が答えだった。

 日本男子の井上康生監督は「非常にそつのない調整をしていた。現地入りしてから彼に言ったことはほとんどない」と説明。持てる力を十二分に発揮した結果の金メダルに、大野は「いつも通りを心掛けた」と当然のように語った。 (井上仁)

◆強さ、美しさ 伝えられた

 歓喜の瞬間も主役は全く表情を変えず、静かに畳を下りた大野。「内容的に満足できるものじゃなかったけど、柔道という競技のすばらしさ、強さ、美しさを伝えられた」

 1日1000本の打ち込みなど、地道に作り上げた投げっぷりは井上康生監督をして「世界一美しい技」と言わしめる。さらに、特筆すべきはその破壊力。稽古ですら見る者を圧倒する迫力は、柔道の魅力そのものだ。

 日本柔道、特に男子は伝統的に重量級が花形とされ、「悔しい気持ちもあった。中量級の僕でもインパクトのあるダイナミックな柔道、本当に強くて美しい柔道をできると証明したかった」

 現代の柔道界はモンゴル相撲やロシアのサンボなど、各国が伝統の格闘技の要素を生かしており、井上監督は「さまざまな国の格闘技の複合体になりつつある」。その中で正統派復活を告げる価値ある大野の金メダル。日本柔道の強さを示せたかと問われ、大野選手は「だとすればうれしいですね」。自信に満ちた笑みを見せた。 (井上仁)

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