紙面から

柔道男子90キロ級・ベイカー 歴史変えた

男子90キロ級決勝 ジョージアのリパルテリアニを破ったベイカー茉秋(上)=リオデジャネイロで(隈崎稔樹撮影)

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 2階級が行われ、男子90キロ級でベイカー茉秋(東海大)が決勝でリパルテリアニ(ジョージア)に優勢勝ちし、金メダルを獲得した。旧86キロ級を含め、この階級の日本勢の五輪制覇は初めて。日本柔道男子のメダル獲得総数は50個に到達した。

 女子70キロ級で前回ロンドン五輪7位の田知本遥(ALSOK)は決勝でアルベアル(コロンビア)に一本勝ちし、今大会の日本の柔道女子で最初の金メダルを手にした。同階級での優勝は、2008年北京五輪で2連覇を果たした上野雅恵以来。日本の男女が同じ日に五輪で優勝するのは2004年アテネ五輪の男子100キロ超級の鈴木桂治、女子78キロ超級の塚田真希以来となった。 (共同)

◆勝負に徹し「鬼門の階級」初制覇

 こらえていた感情がほとばしった。男子90キロ級決勝。ベイカーは両腕を突き上げ、手で顔を覆い、笑顔を振りまいた。この階級では日本勢初の五輪金メダルに、全身で喜びを表現した。「ガッツポーズはとっさに出た。格好良かったですか?」と口も滑らかだった。

 準決勝の後に緊張から3度、嘔吐(おうと)した。初めての経験だったが動揺はなく、「逆に軽くなった」。決勝は欧州王者から大内刈りで有効を奪い、2分半近い残り時間を逃げ切った。消極的な姿勢に客席からブーイングが起きても「金と銀ではすごく違う」と動じることはなかった。

 日本男子の井上康生監督は「勝利への執念」と評価した。準決勝は両者ポイントなしで残り49秒。微妙な判定の指導を受けて窮地に立つと、スイッチが入った。直後に襲いかかるような大内刈りで有効を奪い、そのまま抑え込んで一本勝ち。「指導で並ぶのではなく、投げてやろうと思った」。状況を的確に見極める強い勝負勘を発揮した。

 この階級は高い身体能力に重量級並みのパワーを持つ海外勢がひしめく。旧86キロ級の時代も含めて日本の「鬼門」とされた。身長178センチのベイカーは小柄だが、高校時代から30キロ近い増量とともに鍛え上げた体で対等に組み合い、足技で崩し、寝技で仕留める。この日の対戦相手も全て自分より長身だったが、苦にする様子はなかった。偉業を達成した21歳に、井上監督は「恐るべし」と脱帽した。

 2000年シドニー五輪の100キロ級決勝で、井上監督が一本勝ちした姿に憧れた。13年にリオで行われた世界選手権で日本男子は81キロ級以上のメダルを逃し、日本にいたベイカーのもとへ現地の監督からメッセージが届いた。「次はおまえの番だ」。その3年後、約束は果たされた。ベイカーは「井上監督のように、ばしっと決めたかったけど」といたずらっぽく笑った。(リオデジャネイロ・井上仁)

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