紙面から

陸上男子100m 山県「半歩」の成長 自己ベストで準決敗退

男子100メートル準決勝力走する山県亮太(左)。その右はボルト=代表撮影

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 4年間で世界との距離を「半歩」縮めた。準決勝2組。山県は絶好のスタートを切ると、50メートル付近まで2レーン隣のボルトと好勝負だった。終盤まで粘って自己ベストの10秒05でゴール。5着で敗退したものの、見せ場をつくった。「自己ベストは誇りに思うし、4年前の記録(10秒07)を超えられてうれしい」。数字とレース内容で4年間の成長を実感した。

 同じ組のボルトがトラックに現れると、会場は異様な盛り上がりに。独特の雰囲気の中、山県は前だけを見つめていた。集中力と勝負強さ。五輪で自己ベストをマークできる選手は数少ない。

 陸上界の異端児だ。広島・修道高から慶大へ。特定の指導者につかず、独学で走る求道者。走りのビデオを撮り、繰り返し見ては研究する。この日も予選の映像をチェックし「スタートで体が起き上がるのが早かった」と修正。予選の10秒20からタイムを縮めた。

 最近は棋士の羽生善治さんの著書をよく読むという。「考え方や勝敗を分ける決断は何でも同じ。理詰めのところも好き」。独特の感性で100メートルと将棋を重ね合わせた。

 理論だけではない。根性の持ち主だ。高校2年のとき、左足親指の付け根を骨折。その状態で半年以上走り続けた。結局、腰の骨を移植し、左足にはいまも固定する器具が入ったままだ。

 ロンドン五輪の準決勝では世界との距離を感じた。「あのころの差は一歩くらい。でも今回の準決は良かった。あと半歩くらいです」。リオでつかんだ確かな手応え。これから4年で残りの半歩を縮めればいい。頭脳派スプリンターには学び、研究し、先を読む力がある。 (森合正範)

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