紙面から

レスリング58キロ級・伊調 女王の涙 3連続劇的逆転 金「独占」

五輪4連覇を達成し、感慨深げに天井を見上げる伊調馨=リオデジャネイロで(内山田正夫撮影)

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 58キロ級の伊調馨(いちょう・かおり=ALSOK)と48キロ級の登坂絵莉(とうさか・えり=東新住建)69キロ級の土性沙羅(どしょう・さら=至学館大)がこの日の女子3階級の金メダルを独占した。

 伊調は決勝でコブロワゾロボワ(ロシア)に終了間際の逆転で判定勝ち。ロンドン五輪までは63キロ級で3連覇しており、この優勝で五輪全競技を通じて史上初の女子個人種目4連覇を達成した。登坂は決勝で前回ロンドン五輪銀メダルのスタドニク(アゼルバイジャン)に土壇場の逆転で判定勝ち。この階級で日本勢の「金」は、ロンドン五輪の小原日登美に続く2大会連続となった。

 土性は決勝でロンドン五輪72キロ級金メダルのボロベワ(ロシア)を内容差で破った。階級区分変更後、新たに実施された階級の初代女王となった。 (共同)

◆1月の敗北を糧に

 4度目の五輪にして初めて味わう感情だった。女子58キロ級の伊調は「戦うのが怖かった」と振り返る。ことし1月、ヤリギン国際(ロシア)の決勝で喫した13年ぶりの敗北が影響を与えていた。自分のやりたいレスリングと、勝ち続ける使命とのバランスに若干の狂いを生じさせてマットに上がった。

 「二つの思いが交互に来ていた。攻めなきゃと思う気持ちもあるし、ここで入ったら点を取られてしまうという気持ちも」。決勝の第1ピリオド。広い間合いから仕掛けたタックルをかわされ、逆に失点した。ヤリギン国際で無名のモンゴル選手に敗れた展開が重なった。

 当時は一度の失敗に懲りず、執拗(しつよう)に攻めて泥沼にはまった。しかし、この日はいったん腰を据え、守りを固めながらカウンターを狙う相手の動きを見るゆとりがあった。

 その時は来た。伊調のタックルを相手がかわし、逆に懐へ。「ここしかない」。自分の右脚にかかった相手の腕を巧みに外して背後を取り、残り3秒で逆転した。

 練習相手を務める田南部力コーチ(警視庁)は「残り十数秒でポイントを取る練習は普段からしてきた」と話す一方で「1月の負けがなかったら、きょうは負けていた」。教訓を生かした勝利だった。

 「やっぱりレスリングって難しい。あらためて心技体のスポーツだと思った。だからこそやりがいがある」。その思いが「(競技生活の)一応の区切り」と口にした今後の去就に、変化をもたらすかもしれない。 (リオデジャネイロ・鈴木智行)

◆伊調 一問一答

 金メダルでも自らに厳しい評価を下した伊調だが、亡き母への思いを口にした時、表情は和らいだ。 (共同)

 −4連覇の感想は。

 「ほっとしている。内容は駄目駄目。もっといい試合をしたかったという悔しい気持ちでいっぱい。金メダルが取れたのは自分の力ではなく、応援してくれた方々、みなさんが力を与えてくれた」

 −お母さんが亡くなり、初の五輪。

 「こんなに天井を見上げた五輪はない。必ず見上げ、母としゃべって試合に臨んでいた。母が助けてくれたと思う。見ていてね、絶対に金メダルを取るからって。いい試合をするねと言った。(もっといい試合がしたかったので)ごめんねと言いたいのと、ありがとうと言いたい」

 −自己採点するなら。

 「30点。金メダルのおかげで高い。金メダルが25点で、試合が5点」

 −過去3大会のメダルと比べて。

 「いつもより重い。自分一人では取れなかったので、みんなの気持ちが入った重たいメダル」

 −試合後に遺影を抱きしめ、泣いていた。

 「家族の顔や、支えてくださった方の顔を見たら、涙が出てきた」

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