紙面から

レスリング53キロ級・吉田「銀」 絶対女王、最後に油断

女子53キロ級決勝 米国のマルーリス(手前)に敗れた吉田沙保里=今泉慶太撮影

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 リオデジャネイロ五輪レスリング女子の3階級が行われ、53キロ級の吉田沙保里は決勝で2015年世界選手権55キロ級優勝のマルーリス(米国)に1−4の判定で敗れて4連覇を逃し、銀メダルだった。

 63キロ級で川井梨紗子(至学館大)は決勝でママシュク(ベラルーシ)に6−0で判定勝ちし、金メダルを獲得した。渡利璃穏(アイシンAW)が初戦の2回戦で敗退した75キロ級はエリカ・ウィービー(カナダ)が制した。

 日本勢は女子の6階級中4階級で優勝し、メダル5個を獲得した。 (共同)

◆伏兵と決勝「勝てる」

 残り1秒。最後のタックルは右脚をとらえたが、敵は倒れなかった。終了のブザーが鳴ると33歳の「元女王」はそのままマットに顔を伏せ、肩を震わせた。「最後の最後に負けてしまった。ここに落とし穴があるとは思わなかった」と吉田。2002年に世界選手権を初制覇して以来、立ち続けた場所から降りるときがきた。

 過去3年の世界選手権で決勝を戦ったソフィア・マットソン(スウェーデン)が準決勝で敗れた。勝ち上がってきたマルーリスとは11、12年の世界選手権で当たり、いずれもフォール勝ちしていた。

 「マットソンが上がってくると思っていた。気を抜かないようにと思っていたけど」。タックルで何度も足を取った。いつもは確実にポイントを奪う場面でも、強引に起き上がろうとする相手を押さえられない。第2ピリオド序盤に1−2と逆転され、残り1分で2点を加えられると万事休した。「最後は勝てるだろうと思っていた。取り返しのつかないことになった」

 4度目の五輪を控え、不安は少なくなかった。昨秋に発症したぜんそくは一時期治まっていたが、国内での大詰めの合宿中に再び症状が表れたという。左肩など慢性的なけがも多く、7月には股関節を痛め、体を追い込み切れなかった。

 昨年末の全日本選手権を最後に試合に出ておらず、実戦勘も心配された。「海外選手の研究材料はもらっていたので大丈夫だった」と振り返ったが練習相手は限られ、海外勢のパワーや格闘スタイルに触れる機会からは遠ざかっていた。

 「主将の役割を果たせなかった。声援もすごく聞こえてきたが、力を出し切れず申し訳ない」。取材エリアでは、テレビカメラやマイクを向けられるたびに頭を下げた。何度繰り返しても、涙は止まらなかった。 (鈴木智行)

◆「多くのことを学んだ」金のマルーリス

 53キロ級の表彰式では悔し涙の吉田と対照的に、うれし涙が止まらなかった。4連覇を阻み、米国のレスリング女子に初の金メダルをもたらしたマルーリスは「人生の中でこの瞬間を夢見ていた」と歓喜に浸った。

 0−1で迎えた第2ピリオドに一気に勝負に出た。相手のバックを取って2点を奪い逆転すると、その後、タックルを決めリードを広げた。終盤は吉田の持ち味であるタックルを冷静に見て腰を引き、かわし続けた。

 2012年ロンドン五輪後に行われた世界選手権の55キロ級決勝で、吉田に歯が立たずフォール負け。「3度の金メダルを獲得しても戦いに戻ってくる、とても素晴らしい選手。研究するうちに、敵ではないと思えた。多くのことを学んだ」。憧れた相手を最高の舞台で破った涙は、努力が結実した証しだった。 (共同)

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