紙面から

川井初心貫く 「レスリングは楽しい。しっかり攻めた」

女子63キロ級で優勝し、日の丸を手にマットを走る川井梨紗子=リオデジャネイロで(内山田正夫撮影)

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 五輪切符を手にしたあと、川井は座右の銘を定めた。「初心に帰る。調子に乗ったり偉ぶったりしたら軸がぶれちゃう。レスリングは楽しいという最初の気持ちを忘れちゃいけない」。金メダルを懸けた決勝はまさに、金沢市でレスリングを始めたころのような活発な動きで相手を圧倒した。

 「攻めるところは攻め、しっかり取ることを考えた」。開始約30秒、正面からのタックルを仕掛けると、四つんばいで逃げ惑う相手を追い掛ける。しっかり押さえ付けて2点を先制した。強弱の差はここで明確に。第2ピリオドも着実に得点し、最後にたくましい両腕を突き上げた。

 昨年、本来の階級より5キロ重い63キロ級へ。世界選手権(ラスベガス)代表となり、そこでリオ五輪の出場枠を獲得するまでは順調だったが、決勝はタックルを簡単に組み止められてフォール負け。この階級の重さをどう克服するかが課題となった。

 ウエートトレーニングに取り組み、好きな清涼飲料水を控えるなどし、体脂肪率を5%ほど減らした。得意とする組み手を磨き、いざというときに繰り出す投げ技も練習。いつしか、この階級の相手も自在に崩すパワーを手に入れた。五輪女王の勝ち名乗りを受けた後は、至学館大監督の栄和人チームリーダーを投げ飛ばした。

 「五輪は本当にいいところでした。最高です」。帰国後は教育実習が待つ大学4年生。素朴さを失わないまま、東京五輪での連覇に向かう。 (鈴木智行)

◆川井 一問一答

 決勝で安定した強さを見せた川井は、初の五輪金メダルに満面の笑みを浮かべた。 (共同)

 −前日に日本勢3人が金メダルを獲得した。

 「これで自分が取れなかったらどうしようと、ちょっと不安になったけど、部屋に(登坂)絵莉さんが帰ってきて、メダルを見せてもらい、自分も絶対ほしいと思った。そこからプレッシャーはなかった」

 −吉田が負けて。

 「びっくりしたのが一番だけど、決勝直前に何があるか分からないと思った。自分の中でも絶対に金メダルを取りたい気持ちは、ぶれさせないようにしていた。切り替えはできた」

 −63キロ級を選んだ時の迷いは。

 「『諦めた』『(伊調)馨さんから逃げた』と言われたこともあった。そうじゃないのにな、でもそう見られても仕方ないのかな、と思っていた。いまでも思い出すとすごく悔しいけど、それがあるからいまがある」

 −(女子が実施されておらず)お母さんが立てなかった五輪の舞台。

 「母の分はもちろん、そのころレスリングをやっていた方は、みんなそういう思いをしている。その人たちの分も、と思った。五輪は最高、いいところでした、と伝えたい」

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