紙面から(パラリンピック)

リオパラリンピック来月7日開幕 日本製VS海外製 用具も火花

義足で踏み切り、跳躍する高桑早生選手=新潟市で

写真

 五輪に沸いたブラジル・リオデジャネイロで9月7日(日本時間8日)からパラリンピックが始まる。日本からは132人が出場する。このうち陸上選手たちの「武器」とも呼べるのが、車いすや義足だ。技術者たちが記録の飛躍につながることを願って積み重ねてきた研究の結晶でもある。(伊藤隆平)

 下り坂なら自動車並みの時速五十キロ以上で走るのは「レーサー」と呼ばれる車いすだ。エンジンは選手。鍛え上げた上半身の筋力で車輪を回すと、平らな道でも時速三十キロを超える。

 「パラアスリートたちはみな障害の部位や程度が異なり、体の自由度が違う。だから、この世に一台しかないレーサーを作る」。国内のトップメーカー、オーエックスエンジニアリング(千葉市)の技術者、小沢徹さん(46)が語る。

 座席の高さや幅、前輪と後輪をつなぐ筒状などのフレームの長短で、選手の上体の傾きと、車輪を回す腕の角度が変わる。その微調整がスピードにつながる。

 リオ大会に出場する日本代表の車いす陸上選手十四人のうち、競技歴二十四年の松永仁志選手(43)ら八人がオーエックスエンジニアリング社製のレーサーに乗る。八千代工業(埼玉県狭山市)、日進医療器(愛知県北名古屋市)製のレーサーに乗る日本代表選手も。世界一のシェアとみられる米国の「トップエンド」製で出る選手は今回、二人にとどまりそう。レーサーは国産に軍配が上がる。

 脚を切断した選手が100メートル走や走り幅跳びで着用するJ形の義足の「板ばね」と呼ばれる基幹部は「オズール」(アイスランド)、「オットーボック」(ドイツ)が、市場占有率で世界二強。とりわけ陸上用義足の開発を二十年以上続けるオズールの製品が、国内外の一流選手に人気だ。

 女子の100メートルや走り幅跳びに出場する高桑早生(さき)選手(24)は陸上を始めた高校生のころから大学四年になるまで今仙技術研究所(岐阜県各務原市)製を履いていたが、それ以降はオズール製。「走りやすさでは今仙製だが、地面をはじくような力はオズール製が上。使いこなせば結果が出る」と話す。

 走り幅跳びで昨年の世界選手権を制した山本篤選手(34)=静岡県掛川市出身=も二〇〇八年の北京大会では今仙製だったが、今はオズール製に。リオで国産を使うのは「サイボーグ」(東京都渋谷区)製で100メートルと400メートルリレーを走る佐藤圭太選手(25)=愛知県豊田市=だけかもしれない。

 差を生む一因は、開発に費やしてきた歴史。サイボーグは昨年から、今仙は〇二年からと短いが、両社が見据えているのは二〇年の東京大会だ。今仙は総合スポーツメーカー「ミズノ」(大阪市)などと、日本人の体格に合った新商品の共同開発を終え、十月に発売予定。「日本人が国産義足でメダリストになる」のが目標で、戦いは既にスタートしている。

◆炭素繊維 軽く強く

 炭素繊維は、レーサーのフレームや義足の板ばねに使われている素材。鉄の4分の1の軽さながら、10倍の強度があり、弾力に富む。

 アクリル繊維を2000〜4000度で蒸し焼きし、水素や窒素を取り除いて、純度が高く強い炭素の糸を作る。この糸を敷き詰めたり、編み込んだりした後、強化プラスチックで粘着させてシート状にする。縦横などに編み込むと、多方向から引っ張る力に耐えられるようになる。

 出来上がったシートを重ねて、筒状にしてレーサーの胴体にしたり、1枚の板ばねに仕上げたりする。

 1971(昭和46)年に世界で早い段階に炭素繊維の商業生産を始めた東レ(東京都中央区)などの国内企業が作り上げる品質は、世界一と評される。オーエックスエンジニアリングや今仙技術研究所だけではなく、オズールとオットーボックも日本産を使っている。

 炭素繊維は航空機の胴体などにも使われている。

<パラリンピック> 身体や知的に障害がある選手たちによるスポーツの祭典で、五輪を開催した年に、五輪閉幕後に開く。リオ大会には160以上の国・地域から4000人を超える選手が参加し、9月18日まで22競技でメダルを争う。各競技には障害の程度と種類に応じた「クラス分け」がある。例えば車いす陸上競技では、両手の機能が正常な選手と、指を曲げたり伸ばしたりする動きに支障がある選手とは別々のクラスで競う。義足選手の陸上競技では、片脚の膝の少し上からが無い選手と、膝の少し下からが無い選手ではクラスが違う。

※ご利用のブラウザのバージョンが古い場合、ページ等が正常に表示されない場合がございます。