<パラリンピアンの翼>(4)ゴールボール・浦田理恵 強み生かし連覇見据える
ゴールボール女子の浦田理恵主将=東京都足立区総合スポーツセンターで |
人には、何もなければ気づくこともない不思議な力が潜んでいるらしい。
アイシェードと呼ばれる目隠しで真っ暗な状態でプレーする「ゴールボール」。女子日本代表の浦田理恵(39)=福岡市中央区=はバスケットボール大のボールに入った鈴の音、敵の足音に耳を澄ますと、まるで動きが見えているかのように、バウンドしたボールを止める。
相手の動きを頭に思い描く「サーチ力(捜す力)」は世界一、二と評される。視力を失って、その能力が台頭した。
小学校教諭を目指して専門学校へ通っていた二十歳のころ、「網膜色素変性症」を発症。視力がだんだんと落ち、黒板の字が見えなくなった。でも、結果を知るのが怖くて精密検査を受けなかった。
卒業を間近に控えた教育実習で、子どもたちをプラネタリウムへ引率。薄暗い館内で自分の席がどこなのか分からず、ただ立ち尽くした。教諭の道はあきらめた。
心配するだろうからと両親に打ち明けたのは一年以上先に。一人暮らしをしていた福岡県から熊本県の実家へ帰省した時、迎えに来てくれた母の声の方を探したのに、顔はもう見えなかった。
左目の視力はなくなり、右目も視野は中央のごく小さい部分だけで光を見分けられる程度。点字や白杖(はくじょう)を使って歩くことを学び始めても「見えないからできない」とめげた。
転機は二〇〇四年アテネ・パラリンピック。目隠しをした選手たちが活躍するゴールボールのテレビ中継を聞いた。通っていた鍼灸(しんきゅう)マッサージ訓練校の体育館が、日本代表のコーチ、同じ病気でアテネの銅メダルに貢献した選手、小宮正江(41)の拠点だった。
運動は決して得意じゃなかったけれど、「見えないから…」と言い訳できない世界を体験したくて、練習への参加を頼み込んだ。
突出した潜在能力により、パラリンピック初出場だった〇八年北京大会から守備の要の「センター」を任された。結果は八カ国中の七位。さまざまな角度からボールを受けて音の聞き分けを鍛え直し、一二年ロンドン大会では金メダルを獲得した。リオでもセンターとして出場する予定だ。
浦田は話す時、声の出どころから目の位置を推測して、しっかりと見返す。知らない人は障害に気づかないかもしれない。
いま、視線の先に定めているのは「連覇」だ。 (文中敬称略)