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東京都知事選

需要戻らず中小悲鳴 景況感は足踏み状態

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 東京都民銀行が二十二日発表した今年六月の景況感調査によると、「都の企業」(首都圏の中小企業)の景況感はやや復調しつつも、ほぼ足踏み状態だった。中国の景気減速や円高基調で先行きの不透明感が増す中、次の都政のかじ取り役の責任は大きい。同行のシンクタンク「とみん経営研究所」の畠中初(はじめ)顧問に調査結果を分析してもらうとともに、企業の声を紹介する。 (伊藤弘喜)

 景気が「好転」と答えた企業の割合から「悪化」とした企業の割合を引いた業況判断指数(DI)は、全産業でマイナス一・八。二月の前回調査から三・一ポイント改善したが、二期連続でマイナスだった。

 業種別では、製造業がマイナス七・一で、上昇分は〇・三ポイントとほぼ横ばい。特に輸出向けの「金属製品」が円高の影響で落ち込み、包装資材向けの「紙・紙加工品」が個人消費の伸び悩みで苦しんだ。一方、非製造業は一・五で四・四ポイント上昇。今後の見通しでも、製造業がマイナス七・二と低迷が続くが、非製造業は一一・九と大きく改善し、明暗が分かれた。

◆好調な建設業でも五輪特需後が「不安」

 消費者の節約志向が中小企業にも響いている。定食店など小規模飲食店を顧客にする小売店などでつくる「東京都米穀小売商業組合」の宍戸秀健事務局長(58)は「コスト削減を求める飲食店との価格交渉が厳しい。消費者の低価格志向が影響しているのでは」と指摘。企業や官公庁向けにユニホームを販売しているカンセン(東京都中央区)の宮川謙取締役(64)も「新調する企業は少なく、古くてもできるだけ長く着ようという傾向が強い。先行きが不透明だから経費を抑えたいのだろう」と話す。

 自動車や電機の大手メーカーに部品を供給している林精密工業(江戸川区)の林義雄社長(76)は「もっと働きたいのに、仕事が減っている」とぼやく。円高によって大手が部品の調達先を海外に移す傾向をさらに強めることを警戒する。次の都知事には「その場しのぎの助成金ではなく、なぜ中小が苦しんでいるのか、実情を理解した上で対策を打ってほしい」と望む。

 一方、「五輪特需」に沸く建設業界。都知事選では東京五輪の費用問題も争点になっているが、くい打ち工事などを手掛ける春日基礎(豊島区)の斎藤貢司社長(48)は「問題は五輪特需の後。仕事が続き、人を確保し続けられるかどうか」と懸念する。

 新しい都政には「少子高齢化も進み、いろいろな産業で人材不足がますます進む点をしっかり認識してほしい」と注文。道路やトンネルなどインフラの老朽化問題を挙げ、「財源は限られている。公共事業を大盤振る舞いするのではなく、本当に必要かどうかを吟味して」と求める。

◆都は起業・教育に投資を とみん経営研顧問・畠中初さん

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 <分析> 大きく悪化した前回二月の調査から期待されたほど回復していない。ものづくり企業を取り巻く状況は厳しいままだ。円高基調が続いているため、輸出に影響を受けやすい自動車関連業界と関係が深い「金属製品」は前回のゼロからマイナス一七・六に下落した。

 景況感を支えているのは非製造業だ。中でも「建設」がマンションやホテルの新築、住宅のリフォームなどで好調。それに伴い建設機器レンタルなど「サービス」も伸びている。建設関連の活況は二〇二〇年の東京五輪までは続くだろう。

 次の都政には、国も巻き込み、起業しやすい環境づくりに向け規制緩和に取り組んでほしい。現状ではまだ法人登記などの手続きが煩雑だ。

 今後、自動車や家電、工場の生産設備などあらゆる電気機器をネットでつなぐ「モノのインターネット(IoT)」が進めば、多くの企業が事業構造の転換を迫られる。だがIoTに対応するため社員教育に投資したくても、中小企業は大企業に比べて余裕がない。都が中小向けに、一流の講師陣による社員教育の機会を提供するべきだ。公共事業に金をつぎ込むより、よほど長期的な経済効果が望めるだろう。 (談)

 

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