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東京都知事選

<まちの論点>築地市場跡地 百花繚乱の構想に困惑

築地市場跡地について「ありふれた巨大再開発はしてほしくない」と話す鳥藤社長の鈴木章夫さん=中央区の築地場外市場で

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 二年前の夏。世界最大級の水産物取り扱い施設として活気あふれる築地市場(中央区)に、外国人ビジネスマンたちの姿があった。

 米国やマカオでIR(統合型リゾート)を展開する米大手会社の首脳一行だった。関心は、粋でいなせな日本の食文化ではなかった。築地市場が江東区豊洲に移転した後の広大な跡地にある。一行と接触する機会のあった関係者は「彼らが目をつけたのは『カジノ』の用地」と明かす。

 富裕層の社交場であるカジノを核に会議場や宿泊施設をつくりたいという。最近も別の大手IR関係者が視察に来た。ただ、カジノ開設には国レベルでの法改正が必要。ギャンブルへの抵抗感から住民の反対運動が起きることも予想される。

 築地市場の豊洲移転で、首都のど真ん中に東京ドーム五個分の土地が生まれる。二〇二〇年東京五輪・パラリンピックでは観客らを運ぶ車両などを止めるモータープールに使う計画が浮上している。その後は「決定時期も内容も全く未定」(都の担当者)の状態だ。

 カジノだけではない。大手不動産会社などが、跡地利用のアイデアを次々と提案している。超高層マンションやホテル、さらには野球やサッカースタジアム、医療施設…。さまざまな構想が飛び交い、まさに百花繚乱(ひゃっかりょうらん)の様相だ。

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 地元住民は気が気でない。築地場外市場の鳥肉卸販売会社「鳥藤」社長、鈴木章夫さん(68)は「六本木ヒルズみたいにはしてほしくないよね」と言う。

 一九〇七(明治四十)年創業の老舗の主人は、場外の活性化を目的とするNPO「築地食のまちづくり協議会」理事長として、この街が培ってきた食文化の発信に力を入れてきた。築地市場が移転した後も、一般の消費者たちも相手にする場外は残る。広大な市場跡地の行方は、場外の未来のまちづくりを作用する。

 都心回帰で大規模再開発が続く中央区内では、一時は七万人台前半に落ち込んだ人口も十四万人台へと急増。地域のことを知らない新住民が増えた。鈴木さんは「大型マンションも、商業・オフィスビルもいっぱい。まちの歴史を発展させるような開発を考えてほしい」。

 築地は隅田川の河口にある。ルーツをたどれば築地市場は江戸時代の日本橋にできた魚河岸が、関東大震災後に移転してできた。水辺こそがまちのDNA。それを生かして「人が憩い集まる場所にしてほしい」と願っている。 (荘加卓嗣)

 

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