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東京都知事選

<まちの論点>木密地域のコミュニティー 住みやすく災害にも強く

木密地域の一軒家を耐震、不燃改修し住民に開放している「ふじのきさん家」

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 路地に家屋がひしめく木造住宅密集(木密)地域の一角から、笑い声が聞こえてきた。家をのぞくとお年寄りや親子連れが食卓を囲んでいる。チキンのトマト煮や卵サラダをおいしそうにほおぼる。

 墨田区東向島の「ふじのきさん家(ち)」。築約五十年の空き家を改修、コミュニティースペースに使っている。「外壁はサイディング材、内壁の内側には石こうボード。どちらも耐火性の高い建材を使っています」。NPO法人「燃えない壊れないまち・すみだ支援隊」理事、土肥英生さん(56)が説明する。

 墨田区の広い地域を焼け野原にした東京大空襲で、東向島のあたりは被害から逃れた。昔からの町並みが残るのは、そのためだ。

 老朽化した住宅で暮らし続ける人たちは、多くが高齢者だ。新築はなかなかできない。ふじのきさん家は「改修するしかない人のモデルケースにしよう」と区民や専門家が集まり、二〇一三年四月にオープンした。

 原則週に五日開放し、カフェやイベント会場などに使う。区防災まちづくり課の担当者は「ここが空襲の惨禍を免れられたのは、協力した消火活動など地域の連携の強さもあった。ここは二十三区内でも特に危険な地域。住民の結びつきの強い歴史を生かしながらの対策も充実させたい」と言う。

 建築無料相談会や防災講座も開く。ただ、ふじのきさん家の改修費は五百万円かかった。土肥さんは「もっと安価に改修ができるよう研究を進めている」と話す。

 一方で都が現在進める木密対策は、延焼遮断帯となる道路の整備が柱だ。これには各地で反対運動が起きている。北区では住民が道路拡張計画の中止を求める要望書を都知事宛てに提出。品川区で木密地域と隣り合う星薬科大学も、キャンパスを貫いて計画された防災道路を見直すよう求めている。

 墨田区でも鐘ケ淵、京島地域で道路計画がある。ふじのきさん家の改修にかかわった早稲田大の長谷見雄二教授(建築防災学)は「道路整備は、コミュニティーを破壊する。それよりも必要なのは災害時に機能するコミュニティーづくりだ」。土肥さんも「コンクリートだらけにすることで住環境が良くなるのか。住民の声に耳を傾け、住みやすくて災害に強いまちづくりを実現してほしい」と訴える。 (酒井翔平)

 <メモ> 都防災会議が2012年に公表した首都直下地震による東京の被害想定では、最悪の場合、地震火災で20万棟が焼失し、4000人が亡くなると見込む。

 市街地のなかで公園や道路、燃えにくい建物が占める割合を「不燃領域率」という。都は20年度に焼失率がほぼゼロとなる70%の不燃領域率の目標を立てるが、14年度時点で61%にとどまっている。都が13年に発表した「地域危険度測定調査」では、墨田区北部のほぼ全域が火災危険度が最も高いランク5と、それに次ぐ4に指定された。

 

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