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都議選2017

<東京こと始め>混合介護 「利用しやすく」拡大模索

お年寄りの自宅で家事を手伝うヘルパー(左)=東京都内で(NPO「ACT・人とまちづくり」提供)

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 首都・東京が発信した政策が、各地に波及する例は多い。千代田区で二〇〇二年に成立した罰則付き路上喫煙禁止条例は全国に広がり、都が〇三年にディーゼル車規制条例を制定すると、メーカーの低公害車開発を加速させた。今、東京から始まりつつある取り組みの現場を訪ね、今後の課題を探った。

 介護保険を利用する都内の高齢者宅で、ヘルパーが洗濯かごの衣類をより分ける。家族の分はかごに残し、高齢者の分だけを洗濯機へ−。

 汚いからではない。「介護対象者の分しか洗えないんですよ」。訪問介護事業関係者が、ため息交じりに話す。

 介護サービスを受ける高齢者と、同居する家族の洗濯物は別々に扱わなければならない。現在の介護制度の「壁」だ。家族の洗濯物もヘルパーに依頼することはできるが、ヘルパーは洗濯機を二回回すことになる。高齢者の洗濯に六十分。それから家族の分で四十五分…。

 「同時にできれば効率も上がるし、利用者も使いやすくなるのに…」

 介護対象者へのサービスに併せ、その家族の分の洗濯や炊事、買い物などの手助けをする。これが混合介護。家庭から別途、料金を徴収する。現在の介護保険料は時間単位で決まるため、介護対象者と家族のサービス提供時間が区別できるよう、まとめて作業することは禁じられている。

 小池百合子知事は昨年十二月の都議会で、両者のサービスをまとめて提供できる混合介護の拡大に意欲を示した。来年度から豊島区で国家戦略特区を活用したモデル事業が始まる予定で、小池知事は「都がいち早くモデルを示したい」と訴えた。

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 狙いの一つは介護現場の待遇改善だ。収入の低さなどから、人手不足が続く。厚生労働省の推計では、東京都で二〇二〇年度の介護職員の充足率は90%だが、二五年度には85%に低下し、約三万六千人不足する。

 混合介護がやりやすくなれば、ビジネスチャンスが広がることで事業者の収益力が高まり、ヘルパーらの給与が上がれば働き手の確保につながると見込む。

 ただ、悪影響を懸念する声もある。

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 お年寄りの介護プランづくりを支援する都内のNPO「ACT・人とまちづくり」の香丸(こうまる)真理子理事長(69)は、判断能力の低くなった認知症のお年寄りらが業者の言うがままにならないか心配する。「必要もないのに、家の修繕をしておくと言ってサービスを押しつけたりする危険性が高まらないか」

 ◇ 

 今月二十三日告示の都議選を戦う各党は、待機児童対策や保育士の待遇改善策を前面に打ち出すが、介護問題を巡る政策への言及は少ない。ヘルパーら介護職員の待遇改善を公約しているのは自民、民進、共産、維新。混合介護の拡大は、都民ファーストの会が公約している。

 国レベルでも混合介護への賛否は分かれる。政府の規制改革推進会議は拡大を検討したが、厚労省は「サービスが保険内か保険外かの切り分けが難しい。介護保険給付の増加につながる恐れがある」と慎重姿勢を示し、先送りされた。

 モデル事業を予定する豊島区の担当者も「事業者や利用者のニーズを聞きながら、どのように実施するか判断したい」と話す。

 手探りで始まる混合介護の拡大。介護業界の活性化につながるのか、東京の取り組みが注目される。 (福田真悟)

<混合介護> 介護保険が適用される公的サービスと、自費サービスを組み合わせて提供すること。現在のルールでは明確に区分すれば可能だが、両サービスを同時一体的にはできない。混合介護の拡大は、自費サービス料金を上乗せして公的サービスと同時に提供できるようにする。また、ヘルパーの指名料や時間帯の指定料の導入なども想定している。

 

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