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都議選2017

<待機ゼロの足元> (上)保育の志 見えぬ将来

東京保育専門学校のオープンキャンパスで、教師から手遊びを教わる高校生ら=東京都杉並区高円寺南で

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 告示された東京都議選ではさまざまな課題が問われるが、本紙世論調査で最多の四割以上の回答者が重視すると答えたのは教育・子育て支援だった。中でも、一番関心を集めたのが保育士の確保策。都内の待機児童数(昨年四月)は約八千四百人で、都は二〇一九年度末までに「ゼロ」を目指す。鍵を握る保育士らの望みに施策は寄り添っているのか。現場を歩いた。

 朝五時の目覚ましで起き、慌ただしく着替える。三歳の長女を近所の保育所に送り届けてから、若林雪子さん(42)は板橋区の認可保育所「陽光保育園」へ出勤した。今日は都議選の告示日。保育士の若林さんは子どもたちの世話に追われ、候補者の声を耳にする暇もなかった。

 「待機児童をゼロにしてくれたらうれしい。でも本当かな? 保育士確保はとっても厳しいですよ」

 都内の保育士の有効求人倍率(昨年十一月)は五・六八倍。全国平均二・三四倍の二倍以上だ。保育士養成機関の一つ、東京保育専門学校(杉並区)にも多くの求人が寄せられる。「でも、入学希望者は減っています。保育士のイメージ悪化があると思う」。進路指導室主任の林直美教諭(49)は顔を曇らせる。

 他の職種より給料が十万円以上安いのがこの仕事。同校が十八日に開いたオープンキャンパスでも、参加者から不安の声が漏れた。

 「手をたたきましょ、たんたんたん…」。楽しそうに手遊びを学ぶ高校三年の次女(17)は、小さい頃から保育士になりたかった。見守った母親(48)は「給料が見合わないとか、辞める人が多いと聞くと、親としてはどうかなと。覚悟が必要だって話してます」。

 保育士が増えなければ保育所は増えない。都は二年前に一人当たり月額二万三千円、本年度からさらに二万一千円の補助を始めた。都議選でも複数の政党が「国と合わせて七万四千円の改善を実現した」とアピールする。

 大盤振る舞いに見えるが、現場では給料アップの実感は薄い。補助金は、入所する子どもの人数に応じた必要最低限の職員数を基に配分されるが、実際はもっと大勢を雇っている場合が多いからだ。

 陽光保育園の場合、保育士だけでも、国の基準の二倍を超す二十三人。調理師や事務職員らも入れると四十三人が働く。補助金をみんなで分けると、一人の給料改善はわずかだ。

 「給料もそうだけど、長時間労働もなんとかしてほしい」。多摩地区の都認証保育所で働く保育士の女性(22)は、来春での退職を考えている。

 都独自の制度である認証保育所は、国の認可保育所より開所時間が二時間長い。利用者には便利だが、「保育士はぎりぎりの人数で回している。体調が悪くても、休むとほかの保育士にしわ寄せが行く」。

 遠方から通う同僚は終電に間に合わず、友人宅に泊まって翌日も出勤した。心身を病んで辞めた人も。それでも親会社は「待機児童解消のため」と新園を次々計画し、現場の負担が増えていく。

 「子どもの成長を見守りたくて、少ない給料や長時間労働にも耐えてきた。でも、これ以上続けると、この仕事も子どもも嫌いになりそう。納得して働ける環境をつくってほしい」 (柏崎智子)

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