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都議選2017

<待機ゼロの足元> (下)外遊び 見守る目足りず

橋井健司園長(右)と公園で外遊びをする子どもたち=東京都世田谷区で

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 梅雨の晴れ間が広がった午前中。東京都世田谷区の公園で、認可外保育施設「幼児園ファーストクラスルーム世田谷」の四、五歳児クラスの子ども七人が、園長の橋井健司さん(46)ら保育士二人と遊んでいた。鬼ごっこをしたり、うんていに登ったり。橋井さんは「夢中になって遊ぶことで、やり遂げる力や自分を制御する力が育まれる」。

 園児が遊ぶ一時間半の間、いくつかの保育所の園児たちが来ては帰って行った。公園では、動き回る子どもの行方が分からなくなるトラブルや、けが、体調不良の危険がつきまとう。同園のような長時間の外遊びは、見守る保育士が十分確保できてこそ可能だ。

 国が定める認可保育所の基準では、四、五歳児三十人に保育士一人の配置でよい。都の認証保育所も同様だ。これに対し、同園は子ども八人に保育士一人を付ける。部屋の広さも、国の基準なら二十二人を預かれるが十八人に抑えている。

 橋井さんは「認可になれば基準いっぱいまで預かることを求められる」とあえて認可外で運営している。公費補助がなく、月額十万円超の保育料を集めても経営は大変だが、「これくらいの保育環境が普通になるべきだ」。

 認可保育所なども保育士を基準以上に置く努力をするが、限界がある。多摩地域の保育所で働く女性(19)は「保育士に話を聞いてもらえず、不満をためる子もいる」と憂う。別の園の保育士(22)も「子どもが自分で考えるのを待つ余裕がない」と打ち明ける。

 待機児童数が全国最多の東京。施設を増やす「量」の拡大が最優先で、子どもの立場から保育環境を心配する現場の思いとは逆行した政策も見られる。

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 都は二〇一二年度、待機児童の多い二十四市区で、保育室の面積当たりの受け入れ人数を国基準より増やせるようにした。「保育の質が下がる」などとして実施する自治体はなかったが、都は三年間の時限を一九年度まで延長。今年四月には、オフィスビルの転用などを念頭に、一定の条件で窓のない部屋も保育室にできる国家戦略特区の指定を申請した。

 日本総研の池本美香主任研究員らの試算では、幼稚園も含めた都内の五年ごとの保育需要は、一五年の三十八万二千人をピークに下降し、五輪開催の二〇年には三十七万九千人、四〇年には三十二万九千人に減る。池本さんは「量拡大一辺倒の政策は転換が必要」と指摘する。だが今回の都議選で、各党は施設の増設を公約に掲げても、「質」にはあまり触れていない。

 秋田喜代美・東京大大学院発達保育実践政策学センター長(保育学)は「特に二十三区では園庭のない施設が増え、子どもが外で遊んで体を発達させたり、自然の中で五感を豊かにする教育がおろそかになっている。規制緩和ではなく、質を高めるよう市区町村や園の努力を支えることを意識した政策が欲しい」と指摘している。 (小林由比)

 

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